IT・テック 成長期

三好 紀彰 VSJ合同会社 共同代表

獣医師から、動物業界を変える起業家へ。

「自分の子を安心して預けられる動物業界をつくりたい」。そう語るのは、VSJ合同会社・PAWS有限会社代表の三好紀彰さん。動物病院向けの教育や経営支援、AIを活用したコミュニティづくりなど、挑戦のフィールドは全国に広がっています。原点にあるのは、子どもの頃から変わらない「動物への強い想い」。獣医師は目的ではなく、動物のための手段だと気づいたとき、三好さんの挑戦は診療室の外へと広がっていきました。

※J-Startup West:経済産業省が中国・四国地域の有望なスタートアップを選ぶ制度。2026年中四国から選定された13社のうちの1社

01 原点

「動物に恩返しをしたい」という想い

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Q. 三好さんが獣医師を目指したきっかけを教えてください

今は「動物に恩返し」という言葉で表現していますが、昔はもっと怒りに近いエネルギーを持っていました。中学生や高校生の頃から、「人間は動物からもらってばかりじゃないか」と考えていました。ペットや家畜から多くをもらう一方で、人間は動物に対して身勝手にふるまっている、とも感じていました。

 

当時は、野生動物を守る獣医師になって、アフリカで働きたいと思っていました。ただ、いろいろ考えるうちに、ペットも生まれてから亡くなるまで、人間のコントロールの中で生きている存在だなと。実家が動物病院だったこともあって、最終的にはペットの領域で獣医師になる道を選びました。

三好さん
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Q. 獣医師としては、どのような経験を積まれたのですか?

大学卒業後は、兵庫県加古川市にある地域の中核的な動物病院で約8年間勤務しました。神戸などから重症の動物が転院してくるケースも多く、そこで痛感したのが獣医師によって診療レベルに大きな差があるという現実です。当時は「ロシアンルーレット」と感じていました。同じ病気でも、どの病院、どの獣医師に診てもらうかで、その後が大きく変わってしまう。そんな場面を何度も見てきました。

 

一方で、自分自身もまずは獣医師として力をつけなければ、人のことは言えません。勤務医時代は、目の前の動物を救うことに必死で、技術を磨き、経験を積むことに集中していました。

三好さん
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Q. その8年間の勤務医を経て実家に戻られたことで、考え方に変化はありましたか?

はい。勤務医時代は毎日忙しく、目の前の診療に追われていましたが、実家へ戻ると環境が大きく変わって、少し立ち止まって考える時間ができました。

そこで改めて、「自分は何のために獣医師になったんだろう」と考えました。気づいたのは、いつの間にか「獣医師になること」そのものが目的にすり替わっていたということでした。もともとの目的は獣医師になることではなく、「動物のために何かしたい」という気持ちで、そのための手段として選んだ仕事だったはずでした。

三好さん

02 転機

獣医師は、目的ではなかった

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Q. 「起業しよう」と思ったきっかけを教えてください。

ちょうどそのタイミングで出会ったのが、相田みつをさんの「的は一つに」という言葉でした。目的はひとつに絞るべきだと、改めて突きつけられた気がしました。動物に恩返しをすることが目的なら、獣医師として目の前の動物を診ることだけが正解ではない。もっと多くの動物を救う方法があるはずだと思うようになり、そこで、獣医師としての「プレイヤー」ではなく、経営者として全体を動かす「監督」の道を志すようになりました。

三好さん
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Q. その頃、業界にはどのような課題を感じていたのでしょうか?

獣医師や動物病院ごとにレベルのバラツキが多いのが実情で、全国どこでも一定水準の診療を受けられるよう、業界全体を底上げしたいと考えていました。飼い主の立場だったら、「松山に三好先生がいてよかった」ではなく、全国どこでも安心して動物を預けられる業界になってほしいと思うはずです。

だから、自分一人のレベルを上げるよりも、業界全体の水準を底上げする方が価値がある。「自分の子を安心して預けられる動物業界」をつくるという、今の目標につながっています。

三好さん
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Q. 起業への最初の一歩は、どのように踏み出したのですか?

地方には勉強会が少なく、「東京や大阪へ行けないから学べない」「地方だから仕方ない」という声をよく耳にしていました。だったら、病院や自宅にいながら学べる環境をつくればいい。そんな思いから、まず始めたのがFacebookで獣医師同士が相談できるコミュニティでした。大学の同級生たちに声をかけ、症例を相談し合える場をつくったことが、VSJの原点です。その後、オンラインセミナーへと発展し、全国の動物病院を支える仕組みへと広がっていきました。

三好さん

03 現在地

AI時代だからこそ、コミュニティの価値が高まる

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Q. VSJでは、現在どのような事業に取り組まれているのでしょうか?

全国の動物病院を支えるコミュニティづくりや教育、経営支援を行っています。以前は獣医師向けのオンラインセミナーが中心でしたが、今は動物病院そのものを支える仕組みづくりへと事業を広げています。

2026年からの3ヵ年計画では、「AI×コミュニティ」を戦略の柱に掲げています。AIは今後、診断の分野でどんどん獣医療を代替していくはずです。飼い主さんへの伝え方はまだ獣医師の役割ですが、診断そのものはAIに置き換わっていくと予想しており、だとしたら、その先で価値が高まるのはコミュニティだと考えています。

三好さん
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Q. それが「VSJ PRIDES」というコミュニティにつながっているんですね。

はい。院長先生たちは、診察をこなしながら経営やバックオフィス業務も抱えて、本当に働きすぎています。そこで、「VSJ PRIDES」という新しいコミュニティを立ち上げています。これまでの臨床の教育プログラムや経営支援に、AIの機能を組み合わせながら、直接顔を合わせる泥臭いつながりもつくっていく。臨床と経営、両方のコンテンツがあるからこそできる掛け算だと思っています。

三好さん
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Q. 起業してから、一番の転機は何でしたか?

コロナですね。VSJでは、コロナ前からZoomを使ったオンラインセミナーを開催していて、当時はまだ珍しかったので、コロナでオンラインが当たり前になれば追い風になると思っていました。でも実際は違いました。

学会や勉強会、さまざまな企業が一斉にオンラインへ参入して、世の中にオンラインセミナーがあふれ、多くの人が「オンライン疲れ」を感じるようになりました。VSJのオンラインセミナーの売上も半分近くまで落ち込んで、その時に痛感したのが、自分の甘さです。

「いい目的を持って、本当に価値のあることをやっていれば、結果はついてくる」と思っていましたが、それだけでは会社は続かない。世の中の変化を見ながら、戦略や計画を考えることも必要なんだと学びました。ただ、戦略や計画ばかりを考えていると、自分はワクワクしないんですよね。

三好さん
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Q. そこから、経営者としてどのように変化したのでしょうか?

以前は、「経営者なんだから、自分が全部やらなければいけない」と思っていました。数字も組織も、全部把握して自分で判断しなければいけないと。

でも、それも違うなと気づきました。自分の得意なことを改めて考えたとき、一番力を発揮できるのは、ビジョンを語って人を惹きつけ、仲間を巻き込むことでした。だから今は、それぞれの得意分野を持つ仲間と役割を分担しながら、チームで経営しています。

自分の知らないこと、やらないことを、意識的に増やしているところです。今まさに、壮大な実験の真っ只中です。

三好さん

04 松山という土壌

地方から全国を変える

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Q. VSJという名前にも、地域への思いが込められているそうですね。

VSJの「S」は、2010年に立ち上げた当初、「四国・瀬戸内」を意識したものでした。瀬戸内や四国の動物医療を底上げしたいという思いから始まりました。でも、活動が全国へ広がっていくなかで、今は複数の「Services」を表す「S」として位置づけています。

三好さん
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Q. VSJは松山を拠点に活動されています。地方で起業したことに意味はありますか?

地方だからこそ見えた課題があったと思っています。勤務医時代は都市部で学ぶ機会にも恵まれていましたが、愛媛へ戻ると、その少なさに驚きました。「地方だから仕方ない」と諦めている先生も少なくありません。

でも、それは場所の問題ではなく、仕組みの問題なんです。オンラインでつながれば、地方にいても全国の先生と学び合い、つながることができる。だからこそ、VSJではコミュニティづくりを大切にしています。

三好さん

05 これから

やり方は変えていい。でも目的は変えない。

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Q. これから起業を目指す人に、メッセージをいただけますか?

起業で一番大切なのは、「何のためにやるのか」という目的を持つことだと思います。目的は、最初から決まっていなくても構いません。起業してから見つかることもあります。でも、一度「ここへ行く」と決めたなら、そこへ向かい続けることが大切です。

やり方は、いくらでも変えていいと思っています。僕自身、目的と手段を取り違えていた時期がありました。本当の目的は「動物に恩返しをすること」。獣医師になることも、起業することも、AIを活用することも、全てそのための手段でした。

 

起業には、いいことも苦しいこともたくさんあります。でも、目的があれば「自分で決めた挑戦なんだ」と納得できるし、一歩でも前に進もうと思える。だからこそ、「何のためにやるのか」は大切にしてほしいですね。

三好さん
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Q. 三好さん自身は、これからどこを目指していきますか?

2040年までに、「自分の子を安心して預けられる動物業界」をつくることが大きな目標です。

その先には、子どもの頃に思い描いていた野生動物の領域にも挑戦したいと思っています。アフリカで野生動物を守りたいと思って獣医師を目指したので、ある意味では初志貫徹ですね。動物に恩返しをする。その目的に向かって、これからも挑戦を続けていきたいと思っています。

三好さん

はじめた頃の、リアルな数字

VSJの前身(Facebookグループ)発足
2010年
VSJ合同会社 法人化
2014年7月
オンラインセミナー事業、コロナ前の売上
年間 約7,000万円
現在のVSJの支援目標
動物病院500院(現在/〇〇院)