新居 総一郎さん 株式会社B-and-A 代表取締役
会社を育てながら、経営者として成長していく
「自分の人生は、自分だけのものではないと感じています。成功しても失敗しても、周囲の人を巻き込むからです」。2019年、大学在学中に事業を始め、2020年に株式会社B-and-Aを設立した新居総一郎さん。創業時から仲間を抱え、会社を成長させることに走り続けてきました。会社を育てる中で、人との向き合い方、自分自身との付き合い方を学んできた新居さんに、これまでの歩みと次の挑戦を聞きました。

01 原点
お客様の笑顔と対価が、その場で返ってきた
小学校2年生くらいの頃から、なぜか「サラリーマンにはなりたくない」と思っていました。手に職をつけようと工業高校に進学し、その後、学校の先生も面白そうだと思い、教員になるために大学へ進みました。大学時代には、えひめ学生起業塾の1期生としても活動しています。
ただ、実際に「自分で何かをやりたい」と強く感じたのは、大学時代に始めたフィットネスクラブでのアルバイトでした。自分が何かをしたことで、お客様がその場で笑顔になり、その対価としてお金をいただける。それを見て、「これは商売の本質なのかもしれない」と感じました。資格を使って働くことでも、教員になることでもなく、自分で何かを起こすことが、自分のやりたかったことなのだと気づいたんです。
新居さん
2019年9月に、パーソナルトレーナーとしてバイト仲間と事業を始めました。ただ、パーソナルトレーニングは自分の体と時間を使って働く仕事です。売上をつくるには多くのお客様を担当しなければならず、当時の僕にはそこまでの馬力がありませんでした。
その頃、自分たちの事業のホームページを作っていて、「これをお客様向けに作れば、もう少しまとまった売上になるのではないか」と考え、Web制作の仕事を始めたことが、デジタル領域へ入ったきっかけです。
新居さん

02 転機
言われたものを作るのではなく、根本の課題を解決する
2020年11月に法人化した時から、僕を含めて3人で始めました。翌年4月にはさらに3人が加わり、社会保険なども含めて、毎月80万円ほどが出ていく状態に。仲間の給料を払うためには、とにかく仕事を取って売上をつくらなければなりませんでした。
当時は、実家から送られてきた米を仲間と炊き、もずくや納豆をおかずにして、みんなで食べていました。まさに「お金はないけど、米はある」というような状態でしたね。
僕は自分一人で小さく始めたわけではありません。最初から仲間がいたからこそ、会社を成長させざるを得なかった。どうすれば計画的に成長できるのかを考えるようになり、少しずつ会社らしくなっていきました。
新居さん
二つあります。一つ目は、ある企業から「YouTube動画を作ってほしい」と相談されたことです。話を聞くと、本当に実現したいのは動画を作ることではなく、認知度や売上を上げることでした。それなら根本から考えた方がいいのではと提案し、売上構成や単価まで一緒に見ていくと、当初の依頼とはまったく違う課題が見えてきました。最終的には、その会社のマーケティング部門全体を任せていただき、僕が社外取締役として関わるところまで仕事が広がりました。言われたことをそのまま形にするのではなく、自分たちなりに「本当の課題は何か」を考え、上流から設計することが必要だと学びました。
もう一つは、松山市の若者を対象とした事業「マツワカ」です。それまでは「ホームページを作る会社」「SNSを運用する若い会社」と見られることが多かったのですが、若い世代の人材育成や、行政と一緒に事業をつくる仕事に関わる中で、「自分たちは人に関わることが得意なのではないか」と気づきました。地域における自分たちの役割が、少しずつ見えてきた出来事でした。
新居さん

03 現在地
コミュニケーションをデザインする会社へ
これまでの仕事を振り返ると、僕たちが向き合ってきたのは、企業のコミュニケーション、人と人とのコミュニケーション、地域と人とのコミュニケーションでした。そこで今期から、B-and-Aの立ち位置を「コミュニケーションデザインカンパニー」と定めました。Webサイト制作やSNS運用、広告、行政連携の事業プロデュースなどを行っていますが、それらはすべて手段です。新しい事業を始めたというより、これまでやってきたことや、自分たちのあり方を改めて言語化した感覚に近いです。
新居さん
一番大きかったのは、主要スタッフが立て続けて退社したことですね。人が離れた後にも仕事は残るので、社内のメンバーに無理をしてもらったり、僕自身が案件に入ったりしながら、何とか仕事を回しました。一時期は、社内メンバーの半分から3分の2ほどが入れ替わり、その中で初めて大きく体調を崩しました。頭では「まだ動ける」と思っていたのに、体はそうではなかった。そこで初めて、心と体はつながっているのだと実感しました。
新居さん
ある方から、「もっと自分らしくあっていいのではないか」と言われました。それまでの僕は、何かを判断する時に「会社にとってどうか」「社員にとって何が一番いいか」ばかりを考えていて、その判断の中に自分自身がいなかったんです。「自分はどうしたいのか」と自分にも相談していい。そのことに気づいてからは、少し気持ちが楽になりました。さまざまなメンバーとの出会いや別れを経験する中で、相手の気持ちや時間、その人が大切にしているあり方に、もっと配慮する必要があったなと学びました。
新居さん
社内の人材育成と、メンバーが自分で判断できる環境づくりです。僕がすべてを判断するよりも、一人ひとりが自分で考え、それぞれの力を発揮できる方が、会社として圧倒的に成果が出ると思っています。そのために、必要な予算や権限を持たせ、業務システムを整えるなど、メンバーが自ら判断して動ける環境をつくっている段階です。結果として、僕に依存しない組織になれば、会社としてのリスクも減らすことができます。自分が先頭に立って伸ばす段階から、メンバーのポテンシャルを引き出し、任せる段階へ移ろうとしています。
新居さん

04 松山という土壌
この街で出会った人たちに、引き上げてもらった
松山という土地そのもの以上に、人に恵まれたと感じています。企業や行政の方、仕事を一緒にしてきた方々との出会いがあり、皆さんにたくさん引き上げてもらいました。そうしたつながりの中から仕事が生まれ、僕たちも多くの機会をいただきました。若い時期は引き上げてもらうことが多かったですが、そろそろ自分たちが次の人を引き上げる側にならなければ、とも感じています。
新居さん
松山市のまちづくりに関わる部署との出会いは大きかったです。単なる発注者と受注者ではなく、一緒に事業を育てようという姿勢で接していただきました。その経験によって、他の自治体と仕事をする際にも、行政とどのような関係を築くべきかが明確になりました。
新居さん

05 これから
「故郷創生」を支える側から、担う側へ
僕たちは、「故郷創生」というビジョンを掲げています。ミッションは「故郷の可能性を見出し、次の世代へ手渡す」。コミュニケーションデザインの事業はこれからも基盤として成長させていきますが、現在の僕たちは地域の企業や行政を支援する立場で、契約が終われば関わり続けることはできません。将来的には、事業承継やM&Aなどを通じて、観光、物流、不動産、小売といった地域の産業を、自分たちが直接引き継いでいきたいと考えています。故郷創生を支援するだけでなく、自ら主体者として地域の産業を担っていく。それが、次に目指している段階です。
新居さん

自分の人生は、自分だけのものではないと感じています。成功しても失敗しても、周囲の人を巻き込むからです。高校時代、少林寺拳法で全国4位になった時、祖母が新聞記事を持ち歩いて自慢してくれていました。その時、自分の成果は自分だけのものではないのだと知りました。起業家は、自分の好きなことをするだけの人ではなく、意図せずとも自分を担いでくれる人がいることを理解している人だと思います。だからこそ、自分のためだけではなく、周りの人のためにも頑張る責任があると思っています。
新居さん
まずは、やりましょう。一歩踏み出すには勇気が必要ですが、進んだからこそ見えるものがあります。行った先に道ができるので、まずは始めてみてほしいです。
新居さん
はじめた頃の、リアルな数字
- 創業・開業
- 2019年9月に個人事業を開業/2020年11月に株式会社B-and-Aを設立
- 法人設立時にかかった費用
- 登記費用、パソコン、税理士費用などを含め、約50万円
- 利用した支援
- 愛媛ベンチャー支援機構から法人登記費用27万5000円の支援
- 最初の売上まで
- 個人事業では約1年/法人化後は設立当初から売上あり
- 現在のスタッフ数
- 12人